アリの巨大コロニーが世界を乗っ取る!!

アリは普通、よその巣のアリとはケンカする。しかしアルゼンチンアリは大陸を超えた個体どうしでも家族と認識してケンカしないことが分かった。

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アルゼンチンアリは南米が原産だが、人間の貿易に便乗して世界各地に侵入したアリだ。このアリは、協力しあうたくさんの巣のネットワークからなる「スーパーコロニー」をつくる。一般のアリとちがって巣どうしのなわばり争いにコストがかからないアルゼンチンアリは、エサとりや子育てにエネルギーを投資でき、爆発的な繁殖力を発揮するのだ。このため、アルゼンチンアリが侵入した地域では、在来のアリ類やその他さまざまな生物が圧倒されて姿を消し、農作物や人間生活にも害がおよんでいる。

アルゼンチンアリの故郷、南米ではたくさんの小さなスーパーコロニーがひしめきあっている。しかし、そこからごく少数のスーパーコロニーが外に持ち運ばれて分布を広げていくため、侵入地ではそれらから派生した巨大なスーパーコロニーが形成されることになる。例えばヨーロッパでは、1つのスーパーコロニーがポルトガルからイタリアまで地中海沿岸 6000 km 以上にわたって広がっている。北米でも、1つのスーパーコロニーがカリフォルニア沿岸900 km 以上にわたって分布している。そしてアルゼンチンアリが近年になって侵入したここ日本でも、山口県から愛知県まで、400 kmにわたるスーパーコロニーが形成されつつあるのだ。

これら大陸を超えたスーパーコロニー同士の関係は今まで分かっていなかったが、私たちの研究チームは、ヨーロッパとアメリカから生きたアルゼンチンアリを日本に輸送して、日本のアルゼンチンアリとケンカするかどうかを調べることに成功した。すると、ヨーロッパとアメリカの巨大スーパーコロニーに属するアルゼンチンアリは、日本の巨大スーパーコロニーの個体とケンカしなかったのだ!!しかし、これらのアリは、別の小さなスーパーコロニーとはケンカをした。つまり、3大陸の巨大スーパーコロニーは、お互いを仲間だと認識してケンカをしなかったというわけである。


前半:別々のスーパーコロニーの戦い
後半:日本の巨大スーパーコロニーとアメリカの巨大スーパーコロニーはケンカしない

この、いうなれば「メガコロニー」は、動物がつくる世界最大のコロニーといえる。そして皮肉なことに、このコロニーを作ったのは、私たち人間だ。ちなみに、後の海外グループの研究によって、オーストラリアとニュージーランドのスーパーコロニーもこのメガコロニーの一部であることが分かった。

今回発見されたメガコロニーは、世界最古の侵入コロニーの末裔なのかもしれない。アルゼンチンアリの侵入の歴史は、1850 年ごろ、北大西洋上のマカロネシアに位置するマデイラ島で採集された標本からスタートする。次に侵入が確認されたのは、1890年代のポルトガルだ。当時マデイラは、ポルトガルが南米の植民地と通商をするのに重要な中継地だった。マデイラのアルゼンチンアリがヨーロッパの巨大スーパーコロニーとケンカしないことも知られており、ヨーロッパの巨大スーパーコロニーはマデイラから派生したと考えられている。このシナリオは、どうやら他の大陸の巨大スーパーコロニーについても当てはまるようだ。マデイラに侵入した世界最古のコロニーの末裔が世界規模のメガコロニーを形成したのではないかという仮説は、最近の遺伝解析でも支持されている。

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※ この研究成果は 2009 年夏に公表され、イギリスの BBC 放送や、アメリカの ANIMAL PLANETTIME 誌、世界各国の新聞(NEW ZEALAND HERALD など)他、数多くのメディアに紹介され、海外では大変好評をいただいています。
こんなオカルトサイトにも・・・

※ アリのイラストはイラストレーターのタワシさんによる作品です!!
上のイラストでやられているキャラクターは、左からカエール、くまった、うさった、です。
なお、イラストはイメージで、アルゼンチンアリが現実にカエルやクマ、ウサギを排除するわけではありません。


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